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*KU-SGU Student Staffインタビュー企画*
人間社会研究域 人間科学系 教授

西本陽一 さん

KU-SGU Student Staffインタビュー企画は、国際経験が豊富な本学教職員、学生等に学生目線でインタビューを行い、インタビュー対象者の経験や考えなどを本学学生等に広く知ってもらうことを目的としています。
第四弾では、人間社会研究域人間科学系の西本陽一教授にお話を伺いました。

 

―初めに、先生の研究内容について教えてください。

私は、文化人類学を専門に研究しています。文化人類学では、フィールドワークを通して体験的に異文化研究を行うことで、異文化を理解することを目的としています。外国では、日本と異なることが沢山ありますよね。自文化と異文化がぶつかり合い、カルチャーショックが起きます。それを手掛かりに、相手の文化はどの様な仕組みで自文化と異なるのかを研究するのが文化人類学です。

私はタイ北部の山地に暮らすラフ族を研究対象としていて、1996~1997年に10か月間、ラフ族と生活を共にしました。日本ではほとんど知られていないラフ族を選んだのは、できるだけ自分とは異なる文化の人々と生活したかったからです。実際に村に住んで現地語を学んだり、農業を手伝ったりして、自分とは異なる文化を身体で体験的に理解していきました。これが文化人類学のやり方です。カルチャーショックを体験し、異文化を理解して帰国すると、今度は自文化に戸惑いを感じることがあります。逆カルチャーショックが起きるのです。異文化体験を通して、今まで当たり前だと思っていたことを客体化し、見つめ直すことができるのです。すると、自文化が奇妙なものに思えてくるんです。

―例えばどのようなことでしょうか。

1960年代から、日本は高度経済成長期に入り、良い企業のサラリーマンになって安定した収入を得ることが理想とされました。年功序列と終身雇用が当たり前のことになっていったのです。良い大学に入って良い企業に就職する。それが理想とされたから、親は子どもに小さい頃から勉強をさせます。私も大学受験のために熱心に勉強しました。そして、就職すると定時に帰ることなど許されない風潮がある訳です。日本人は皆、やらなければならないこと、時間に追われて生きているのです。でも世界中でそれが当たり前なわけではありません。たとえばタイに行くと、日本よりも時間がゆっくりと流れているように感じられます。そういうことを、長く住んで異文化に身を浸すことで実感します。のんびりとした生活を体験することで、日本でも時間に追われるのではない、より良い生活が可能なのではないかと考えられるようになります。異文化を経験して帰国することで、自文化を別の角度から眺めるようになります。世界が違うと価値観が異なります。一度外に出て帰ってくることで、自文化を客体化する手掛かりが得られるのです。

確かに、いつも時間に追われている気がします…日本社会に対する違和感は元々抱いていたのですか?

そうですね、ガンガン働くことへの違和感は持っていました。私は大学では非実学を勉強したいと思い、一橋大学の社会学部に入学しました。大学はすぐに役立つ知識を得る場所では無いと考えていたのです。入ったのは良いのですが、自由過ぎて何をしたら良いか分かりませんでした。私が就職活動をしていたときは好景気で、公務員になりたい人はあまりおらず、証券会社や銀行でばんばん稼ぐというのが理想だったのです。ですが私はこのような働き方に違和感がありました。学部4年次に人並みに就活をして内定をもらったのですが辞退して、あまり働かなくても良さそうな外資系銀行に就職しました。定時まで仕事をして、あとは好きな本を読んで暮らそうと思ったのです。ですが、自分の人生や学んできたことに関係のない本を読んでも、面白くありませんでした。趣味の本は生き方と関わらないので、このような二重生活には意義が感じられなかったのです。5年間勤めた後に退職し、タイのチェンマイ大学に初めは聴講生として、その後試験を受けて正規の院生になりました。

―なぜタイを選ばれたのですか?

大学時代、タイへ何度か旅行をして、興味を持っていたからです。学生時代に格安航空券が登場し、大学のポスターを見て、渡航費の安いタイに行きました。勤めていたときには自由な時間を利用して、タイ語も勉強していました。チェンマイ大学時代にフィールドワークを行い、ラフ族と生活を共にしました。文化人類学のフィールドワークは長期間行う必要がありますから、学部時代は難しいですね。日本でのフィールドワークが多いです。

―タイに行かれたのは渡航費が安かったからという理由もあったのですね。タイのどんな魅力に惹かれたのですか?

タイでは時間がゆっくりと流れていて、人々はいい加減な所もありますが大らかでのんびりしています。タイ人にとっては、日本人はシリアス過ぎるそうです。日本はきちんとやらないといけないという社会圧力が強いですよね。少し力を抜いてみる方が幸せなのかもしれません。日本ではサラリーマンが理想とされますが、ラフ族の言い方では、雇われて働いていることを「他人の奴隷をする」と言います。ラフの伝統的な理想は、山で独立して農業をして、一家をなすといったものでした。日本で当然視されている、企業に雇われるということは、それほど立派なことでは無いかも知れません。以前能登での実習では「農業をやっている限り自分が社長だ」という言葉も聞きました。今はラフ人の間でも賃金労働が主流になり、タイの社会もストレスフルになったかもしれませんが。

―タイと日本はかなり違いますね。

そうですね。宗教の面でも、タイ仏教と日本の仏教は随分異なります。タイのお坊さんは結婚や飲酒が禁じられていて、1日2食、一時出家の制度もあります。日本のお寺は家族経営が多いですが、これはタイ人の目からすると仏教の基本的な戒律を破っている訳です。タイのお坊さんから見たら、日本のお寺さんは信じられないでしょうね。

―タイの中でもラフ族を研究対象としたのはなぜですか?

実は、偶然だったのですよ。チェンマイ大学は私を聴講生として温かく迎えてくれて、みんな優しく、タイ人との生活が日常になっていきました。しかし、当たり前になると「おどろき」がなくなります。それで、異文化を研究する人類学の対象としては、タイ族でなく少数民族で、言葉や歴史、慣習がタイ族とは異なる民族と生活したいと思うようになりました。そしてタイで山の村を案内してもらっているときに最初に行ったのがラフの村がラフ族だったのです。

―ラフ族とはどのような特徴のある人々なのでしょうか。

ラフ族は言葉や身のこなしなどがタイ人とは異なります。ラフ族の中でも、キリスト教徒ラフと伝統宗教ラフとでは態度が大きく違います。キリスト教徒ラフは、出会ったときに握手をして、「神の恵みが大きいように」と挨拶をします。形式的で礼儀正しく、規律高いのです。20世紀初頭から、布教によりキリスト教への改宗が進みましたが、アメリカの教会は布教のみを行っていたのではありません。ラフ族は伝統的に移動しながら焼畑農業を行っていたのですが、農業開発で定住して水田耕作を行うようになりました。その他にも、医療開発や学校建設による識字教育など、総合的にラフ族の生活の質を向上させようとしたのです。私は語りの研究をしていますが、日常の語り方にも両者の違いは現れています。キリスト教徒ラフは形式的に話すのに対し、伝統宗教ラフは木訥で、断片的な話し方をします。キリスト教徒は、軽蔑的な見方でアニミストの人々を見ています。「遅れていて汚く、未だに本当の神を知らない」といった感じです。発展や開発を意味するDevelopはタイ語ではパッタナー(พัฒนา)と言います。キリスト教徒はアニミストの人々に対し、まだパッタナーしていない、遅れた奴らだと見下しています。昔の西洋の宣教師たちが非ヨーロッパの各地で宣教していたときも、未だに神を知らない野蛮な人たちを文明化しようとしていました。恐らく、それと同じような態度であったと思います。

―ラフ族の中でも対立があるのですね。最近ではウイグル問題など、少数民族への人権侵害が深刻です。国際社会はある国の中で起きている少数民族への人権侵害に対し、どのような対応をしていくべきなのでしょうか?

難しいですね。生活ベースでフィールドワークを行い、身近な所から考えるため、人類学者はあまり大きなことを言わないのです。しかし、文化人類学によって世界が全く変わらない訳ではありません。それは小さなことの積み重ねだと思います。例えば、かつては終身雇用が一般的で、転職はキャリアに傷が付くことだとされていました。ところが、そのような状況の中で仕事を辞める人が増えてくると、終身雇用が当然であるという価値観が少しずつ変わっていきますよね。このように、異文化理解を通じた自文化の相対化を含め、当たり前や主流の規範を別の角度から見る目を養い、個人的な行動でもそれが積み重なれば、社会を変えることにつながるかもしれません。また、人権問題が起きている場所をフィールドにし、現状を発信している実学的な人類学者もいます。開発人類学という分野です。例えば、土木系の技術を移転すれば相手国の生活が良くなると思われていますが、それだけでは上手くいきません。人類学者は、相手国や土地、現場の事情を理解し、適切なやり方を取る必要があることを発信できるのだと思います。しかし、一言言えば皆が話を聞いてくれる訳ではありません。問題にしてもらえないこともあるでしょう。ですが、小声であったとしても言い続けることによって、長いスパンで見れば何かが変わるかもしれませんね。

―少数民族も外部の人間に警戒感を抱いているように感じます。突然知らない人がコミュニティに入ってくると、反発もあったのではないですか?

はい、ラフ族は農民ばかりで、農業をせずに生活している私のことを、何もしていないのになぜお金を持っているのか、気楽な生活で良いものだ、などと思っていたことでしょう。ですが、受け入れられないことが当たり前なのです。100%現地化する必要はありません。生活するにあたって、言葉は勉強しましたね。ラフ語とタイ語は違う系統の言葉です。ラフは元々無文字社会で、キリスト教会が識字教育を行いました。聖書を翻訳する際にローマ字表記を作ったのです。私は、牧師の奥さんにラフ語を教わりました。彼女は元々ミャンマーに住んでいたのですが、民族紛争で家を焼かれてタイに逃げて来たのです。彼女は高学歴で、ミャンマーでは先生だったのですが、タイでミャンマー語は役に立たず、家で工芸品を作るくらいしかできませんでした。そこで、子ども用の教科書でラフ語を教えてもらうことにしたのです。学校教育を受けた者にとっては、教科書なしで耳で覚えるのは難しいですね。

―先生の研究室では、留学生を受け入れて来ましたよね。

そうですね、英語プログラムを利用して、タイ、中国、インドネシア、ベトナムからの留学生を主に受け入れて来ました。彼らはとにかく積極的に話してアピールします。日本人学生はテキストを理解してまとめるのは得意ですが、意見を積極的に発信しません。英語プログラムなどを活用してもっと英語を話す機会をつくり、意見を積極的に発言できることが大事だと思います。

―確かに、意見を言うのをためらうときがありますが、グローバル化が進む現代社会において、様々な人に自分の意見を表明することが重要視されています。先生にとってグローバル化とは何ですか?

様々な社会と関わることだと思います。例えば、辺境で生活するラフ族は、以前は山で生活がほぼ完結していました。ですが、グローバル化によって、様々なモノが村の外から入ってくるようになりました。タイ社会と関わらないことは最早不可能です。グローバル化の影響は辺境にも現れています。また、グローバル化によって格安航空券が登場したことで海外に行きやすくなり、タイとも出会えました。グローバル化は様々な側面を持っていると思います。

―最後に、金沢大学の学生へのメッセージをお願いします!

実際に現地に行って感じることが重要だと思います。本学は派遣留学や交換留学など、留学制度が充実しています。制度を利用して、異文化を肌で感じ、自分とは異なる世界があることを学んでみてください。将来が変わるかもしれません。

―ありがとうございました!

 

【金沢大学研究者情報】

西本 陽一

 

<編集後記>

KU-SGU Student Staff※

城下理彩子(人文学類3年)

自分のやりたいことを我慢して受験勉強をし、大学入学後は、気付けば就職活動が始まっている…。必ず聞かれる「ガクチカ」(「学生時代に力を入れたこと」の略)、でも先生は特段「ガクチカ」はなく、自分のアイデンティティだと思う仕事ができているから趣味は無くても良いとおっしゃいます。日本社会を客観的に見ると、当然だと思っていたことが当然ではないことに気付かされ、自分を拘束していた固定概念から解放されるのではないかと感じました。

鈴木晴日(総合教育部文系1年)

先生のお話を伺い、改めて当たり前を捉えなおすことの重要性に気づくことができました。また、タイの人々のゆっくりとした生活のお話は、私にとってとても新鮮なものでした。振り返ってみると、私は慌ただしく過ごす日本の社会を当たり前だと思っていました。自分の当たり前は、他の国では当たり前ではないかもしれない。自分自身の視野を広げるという観点からも、異文化に触れることはとても大切だと思いました。

※KU-SGU Student Staff:本学のスーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)を学生目線で推進する学生団体

KU-SGU Student Staff

(2022年6月取材)

  • インタビューの様子:左から西本先生、城下、鈴木<br />
※インタビューはマスク着用にて実施しました。<br />

    インタビューの様子:左から西本先生、城下、鈴木
    ※インタビューはマスク着用にて実施しました。

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